『匠』(たくみ) [湘南の家づくり]
昨日は『叩き大工』について書きました。
建築関係の方はよくご存じでしょうが、それ以外の方に『匠』はどのようにして育ってきたのか?
を書いてみましょう。
大工になろうと思う人は、よくよくの覚悟がなければ修行はつとまりませんでした。
中学を卒業すると、親元から離れて『親方』の家に住み込みで働きました。
これを『年季奉公』といいます。
年季奉公は大体5年間ぐらいですが、その間は衣食住の面倒はみてくれますが、
「全くの無給」です。
朝早くから暗くなるまで 現場で親方の手元として働くほかに、
親方の家の家事(炊事・洗濯・掃除など)もやらされます。
手元というのは親方の手助けのことで、道具を持ってくるとか、材料を切る際に押さえるとかの
誰にでも出来る簡単な仕事のことを言います。
手元から徐々に、簡単な仕事は見て覚えなければなりません。
昼間は親方の目の届く範囲で手伝うため、覚えの悪い子などはしょっちゅう親方の罵声を浴び、
時には「げんこつ」だけに留まらず、「ノミやげんのう(金づち)」が飛んでくる事もありました。
年季奉公の期間が終了すると、『年季明け』といってこの時点から初めて「雀の涙ほどのお給金」
が貰えるようになります。
これからが本当に大変な修行の時期を過ごすことになるのです。
ノミやカンナの使い方更にはそれらの研ぎ方、鋸の使い方や目立てのやり方を一つひとつ
覚えていきます。
まともに道具を扱えるようになるのには、やはり5、6年は必要です。
この期間には、最も大事な『材木』についての、勉強もしなくてはなりません。
これで「晴れて独り立ち」か? というと、そうではありません。
ここまでが、どこに出しても恥ずかしくないレベルに達すると、次は『墨付け』を覚えます。
構造材の位置を決める印を「数字やいろは」などの記号で材木に落としていくのです。
柱や梁に穴をあける場所も、この墨付けで決まります。
これを間違えたら、とてもまともな家にはなりませんし、一本なん10万円もする材木を一瞬にして
「パ~!」にしてしまうことになってしまいます。
墨付けに使う道具は、「墨つぼ」と竹で作られた「墨さし」そして直角に曲がった「曲尺」(かねじゃく)
だけです。
墨付けは、バカでは絶対に出来ません。
なぜなら、墨付けには√(ルート)や三角関数などの「高等数学」が必要なのです。
修行をした大工は、曲尺一本で、どんな角度でも出す事が出来ますし、
どんな径の円でも書けるのです。
こうして、間違えることなく全ての事が出来るようになるまでに、
20年以上の長い時間をかけて一人前に育ちます。
これで、ある程度は解っていただけたのではないでしょうか?
最近は、ホームセンターへ行けば、いい道具やいい工具が安価で売られています。
しかし、技術だけは安直に修得することはできません。
建売住宅では、殆ど若い大工が建てています。
ということは・・・いい加減な修行しかしていない『叩き大工』や『雪隠大工』が
家を建てていると言っても過言ではないのです。
ハウスメーカーが建てる家は規格住宅ですから、決まり決まったことだけが出来れば
それでいいのですが、大工は殆どが材料を取付けるだけの「アッセンブリー屋」です。
このような大工に木造住宅を造らせると、「納まりが、なっちゃいない家」が出来上がるのです。
15才で親方の家に住み込んで、独り立ちさせてもらえるのは早い人で35、6才。
雀の涙ほどのお給金を無駄遣いせず、少しずつ貯めては必要な道具を買いそろえます。
だから、辛くて長い修行に耐えてきた、本物の大工はそれはそれは道具を大事にするものです。
私が仕事で付き合っている大工は、皆このような本物の匠ばかりです。
しかし、彼らも人の子・・・みんな歳をとって老眼鏡が手離せない年齢になっています。
最近、このような大工になんとか『一世一代の仕事』をさせてやりたいと願っています。
彼らはいつも、私にこう言うのです。
「俺らは家を造ることしか能がない、社長みたいに学もない・・・だから、一生懸命
家を造るしかないんだよ。絶対に『欠陥住宅だ!』なんて言われないように・・・
俺が死んでも、俺が造った家は残るからね!いつまでも可愛がって貰えるように、
心を込めて造るんだよ!」
大工が1棟の家を建てるのに、関わる時間は長くて3ヶ月。
大工は出来上がった家が、どのように仕上がったのかを目にすることはありません。
それでもこのように考えて家を造ってくれる、『本物の匠』に仕事をして貰っていることに、
大きな『誇り』を感じています。
☆偶然にも、昨日のごはんやさんは、
匠っていうお店でした!
私が始めて付き合った男の名前もxxxです(暴)
by ijimari (2008-08-27 18:06)
『年季明け』の意味がやっとわかりました!
施主の立場で考えたら、技術を持っていない職人さんに支払う余裕なんて
普通はないですから、年季奉公というのは良く出来た仕組みだと思います。
しかし、職人さんの立場で考えたら本当、勇気がいる選択だと思います。
嫁さんと話したのですが、単なる角材が組み上がるように刻むこと。
その墨付けなんて到底できる気がしません。
尊敬に値します。
by 浜松自宅カフェ (2008-08-27 20:38)
私の家内の父上(故人)もそんな感じの大工でした。
とにかく寡黙である意味変った人でした。
一生自分の家をもてないほど貧乏でした。
そういう大工さんが、どうか報われますように・・・。
by toyo (2008-08-28 00:22)
ijimari さん
食も職人の世界ですから、匠と言う名前のお店があって当然ですね。
お味の方は如何でしたか?
やはり匠の味だったのでしょうか?
by アキラ (2008-08-28 11:18)
浜松自宅カフェ さん
プレカットは金物緊結を前提に刻まれていますから、ほぞがゆるゆるです。
手刻みの場合には、♂の角を玄翁で丸くしたり、水を付けて柔らかくしてカケヤで叩き込みますから、ガッシリと組上がります。
簡便な物が全ていいのではないという、証拠みたいなものです。
一般の方にはなかなか解って貰えませんが、地震での揺れも違うと思いますよ。
by アキラ (2008-08-28 11:23)
toyoさん
職人になることは「お金儲け」ではなく、「一生食いっぱぐれがない」からでした。
おまけに職人は無口で人付き合いが悪く、世渡りが下手ときてますから、お金に縁遠い人も大勢います。
ホワイトカラーの方が上に見られて、職人の世界は3Kの世界ですから下に見られていますが、本来はそれではいけないと思いますよ。
私が知っている大工たちのうち、お金だけではなく女性にも縁遠く、所帯ももてない人もいます。
「人間」としては、皆、素晴らしい人なのに・・・
by アキラ (2008-08-28 11:31)
旦那のおじいちゃんが
有名な箪笥職人でした。
箪笥以外にもスツールなども
我が家に残っています。
でもお客さんを気に入らないと
注文を受けなかったみたいで
家は貧乏だったそうです。
by TOMO (2008-08-28 14:28)
TOMOさん
おじいさんは正しかったと思います。
一概に「気に入らない人」というと、偏屈な人なように思えますが、
「相性が合わない人の仕事はしない」と言うと、私も同じです。
見積もり依頼があっても、相手に会ってみて「相性が合わない」と思ったら、見積もりを断ります。
相性が合わない人の仕事を無理をして請けても、必ずうまく行きません。
これは経験上言えることで、若い方には理解不可能かも知れませんが・・・
by アキラ (2008-08-28 18:37)
いいなぁ^^ どうにか 努力して そんな境地の足元にでも行きたいです
難しかったり きつかったり 儲かんない仕事は なんとかこなせますが^^
気に入らないヤツとの仕事・・これだけはオレも駄目です^^;
楽しめないから・・・
by denn (2008-08-28 22:23)
dennさん
結局、詰まるところは同じだと思います。
「楽しめない」も「やる意味がない」も・・・
終わった後で、トラブル抱えるのも嫌ですしね~^^;
by アキラ (2008-08-30 10:37)
はじめまして。お邪魔します。
大工さんの家作りにかけ想いがこめられた言葉にウルウルきました。
自分の仕事に誇りを持ち、人生をかけて打ち込む姿はまさしく「匠」
ですね。
by ISO (2008-08-30 12:34)